「古典まんだら 上・下」田辺聖子

学生時代に古典文法の授業で挫折しました。
まったく面白くない授業だったという言い訳があるのですが、
それにしても国語は好きだったので、もう少しちゃんと勉強しておけば
よかったと今になってはげしく後悔しています。
田辺聖子のエッセイを読んでいていつも感動するのはその言葉の選びかたと
使いかた、そして古典文学に関する知識、というよりも愛情です。
私のような教養のまったくない者でも思わず興味が湧いてきて、
読んでみたい、読めるようになりたい、とあつかましい願望が生まれます。
付け焼刃ですら難しくどこから手をつけてよいかすらわかりませんでしたが、
こんなすてきな本を書いていてくれていました、さすが田辺サン。
この本のすばらしいところは、田辺サンの愛情がたっぷりふりかかっていて、
どこをとっても嫌な気持ちがしないところです。
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内容は、上巻の古事記から下巻の西鶴と近松や芭蕉や一茶まで
一気に日本の文学を紹介し尽くしてしまう勢い。
(詳しくはこちらをご参照ください → 上巻 下巻
以上のラインナップを見るだけでもお腹がいっぱいになります。
その一つ一つを美しい言葉で丁寧に分かりやすく解説されて、
読者である私たちに「こんなのあるのよ」「これもいいわよ」と紹介して
くれるのです、まったくあきることがありません。
この本を開いてめくるめく古典の世界を旅する時は至上のひとときでした。
各章をしめる最後の言葉にも古典への愛情がこもっています。
「大事な民族遺産」「暖かい心の源泉」などに続く「ぜひお読みください」
という言葉が柔らかくすんなりと心に届くのです。

私の中で一番身近で親しみやすいのはやはり源氏物語で、
小さな頃、初めての宝塚は奇しくも田辺聖子の新源氏物語が原作でした。
榛名由梨の源氏があまりに衝撃的で、子供心に、当時二番手だった大地真央の
惟光の方がだんぜん美しい、こちらが主役か?と疑ったものでした。
その後、大和和紀の少女マンガ「あさきゆめみし」で源氏に再会をしたものの、
どうしても最後まで読む事がならず挫折。
同じく大和和紀の「ラブパック」という王朝マンガの方に親しんだのでした。
万葉集ではやはり大和和紀の「天の果て地の限り」で中大兄皇子に出会い、
黒岩重吾の「天翔る白日」では大津皇子に出会いました。
これはOSKで舞台化もされていてもちろん観に行きました。
近松に西鶴は芝居で多くをとりあげられて親しみましたし、
弥次喜多は長谷川町子のマンガでも楽しみました。
こうしてみるとものすごく横道からではありますが、古典文学と私は
そうそう無縁ではなかったのでした。
この本を読んでいる時も、あ、この歌は知っているというのが時々あって、
古典とは遠いところにいたつもりが、実はひそかに近しいものでもあった
ということがわかったのです。

思い出すだけでも、
スサノオの「八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を」
ヤマトタケルの「倭は国のまほろばたたなづく青垣山隠れる倭しうるはし」
額田と大海人の「あかねさす」と「むらさきの」の両歌
大伯皇女の「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟背とわが見む」
大津と石川郎女の「あしひきの」と「吾を待つと」の両歌
柿本人麻呂の「淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば情もしのに古思ほゆ」
百人一首に至っては、ぼうずめくりばかりしていたので、
知らないと思っていたはずなのに意外に聞き知った歌があって驚くほどでした。

伊勢、小野小町、和泉式部をとりあげた王朝女流歌人の章でのしめくくりで、
田辺サンはこう言っています。
『古典の尊ぶべき和歌を知っているのと知らないのとでは、
 人生でそんなに差はないかもしれません。
 でも、何かの拍子に、自分の感覚や思考に影響を及ぼしてくれます』
さまざまな経験をミルフュイユのように薄く薄く積み重ねて
人としてあつみができていくとしたら、いい年をしてまだまだ若輩の身、
死ぬまでにあとどのくらいあつみを積み重ねられるか、甚だ不安です。
 いにしへのことのはつむいでみやびなるきらぼしの世にわれをいざなう
良い本と出会えました、あなうれし。

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by orochon3 | 2017-03-10 14:09 | | Comments(0)


主に戦前邦画と、思い切り偏った読書の感想などなど。近頃はもっぱらお酒ばかりで スミマセン。


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