カテゴリ:本( 76 )

「あさきゆめみし」大和和紀(その2)

この作品を読んで源氏物語のとっかかりにしようと思いましたが、
これがどのくらい原典にそっているのか、また違いはどこか、
という点においては原典を読んでいないからわかりません。
なので、源氏物語の扉の前まで来てちょっとウロウロして、
ちらりと中をのぞいてみたという程度と考えることにします。

昔の少女漫画なのでとにかく美しい世界が次から次へと
展開します、大和和紀ファンだった私にとっては懐かしい!
特に紫の上は愛らしくて賢くて彼女の画風にぴったり。
最後の最後まで紫の上は紫の上らしくて清々しく、
彼女が亡くなった時は思わず感極まって泣いてしまいました。
(いい歳をして少女漫画で泣けるなんて幸せな証拠!)
光の君も少年時代から青年になり大人になっていく様が
ただ美しいだけでなくしっかりと描かれています。
ただのお人形さんではなく人間らしく描かれているので、
時にげんなりしたり、時に応援したくなったりするのです。
なんの不満もないのですが、ただひとつだけ、、、
女三の宮がどうにも美しくなくて(ヴィジュアル的に)、
かといって彼女の性格があらわれているわけでもなく、
柏木があれほどまでに想いつめる相手なのかなぁ?と、
私としてはかなり不服なのでした。

一番の見所はやはり生き霊にまでなった六条の御息所でしょうか。
そして彼女の抱いた怨念、と一言ではまとめきれない「情」。
いつまでもどこまでも源氏とその周りにまとわりついて
様々な影響を与える恐ろしい「情」、それはきっと誰にでもあって、
また誰にでもつけいれられる隙があるのでしょう。こわい、こわい。

最後まで読んでみて、ああそうだったのかと気づいたのは、
ただ男女の恋模様が繰り広げられる浮かれた物語ではないということです。
「もののあはれ」という私にとって実に難解な世界が丁寧に丁寧に
描かれているのだなぁと、そのほんの一端少しだけ感じることができました。
 ないものはもののあはれをしるこころ 情趣もなくてをかしはさらなり

作者は紫式部であるとされていますが、具体的にどんな人がいくつの頃に
書き上げたのでしょうか。
このような壮大で華麗な(そしてややこしい)物語の構想をして、
見事に構築させたのが遥か平安時代であることに目眩がします。
漫画化されたものを読んだだけなのですが。
次に読む小説が今から楽しみです。

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by orochon3 | 2017-04-16 15:53 | | Comments(0)

「あさきゆめみし」大和和紀

今年の初めのことですが、
知的マダム秋桜さまより源氏物語をすすめて頂きました。
それも和歌がちゃんと入っている瀬戸内寂聴のものが私には
良いのではないかと丁寧に教えて頂きました。
源氏物語、、、
古典の素地のない私にとって高過ぎるハードルです。
とりあえず瀬戸内寂聴のものを読むといってもそれすらも
二の足をふんでしまって、どうしたものかと考えあぐねていたところ
ふと思い出したのが「あさきゆめみし」という少女漫画でした。
それを予備知識として入れておくのはどうかしらん?と思ったのです。
この作品は私が小学校から中学にあがる頃に連載が開始されたと記憶
しています、ミミというちょっとお姉さん的漫画雑誌でした。
連載が始まってからは真面目にちゃんと読んでいたのです、確かに。
六条の御息所が生霊となって呪い殺すというくだりを読んで、
うわぁめちゃくちゃやわぁと思ったところもちゃんと覚えていて、
そして、ジャーン!紫の上が登場しました。
ちいさなお姫様を連れ帰るお兄様(光源氏)という設定に惹かれ、
当時からうんと年上のひとが好きだった私は徐々に源氏物語に
入り込むことができかけたのでした、、、。
けれど何故かそれ以後読み続けることをしなくなりました。
どうして「あさきゆめみし」という源氏物語から心が離れていって
しまったのか?恐らくあのことが深く関与しているのでは?
と思います、それは恐ろしいあの日のことです。
以前に源氏物語のことをブログにも書いていますが(コチラ→
初めて観た宝塚歌劇が田辺聖子の新源氏物語でした。
ちょうど「あさきゆめみし」を読んでいた頃のことです、
美しい大和和紀の絵の光源氏を思い描いていた私の目に飛び込んだのは、
榛名由梨の光源氏、、、これが光の君?!ひっくり返りました。
田辺聖子さんは光源氏にピッタリと大喜びだったようですので、
個人差があるのだと思います、私のイメージではなかったとだけ言って
それ以上は何も言いますまい。
とにかく、なんだかその頃から急激に「あさきゆめみし」を読むのが
厭わしくなってしまったのでした。(今更ながらすごい影響力!)

それから数十年が経ちましたが、その間もずっと源氏物語とは無縁に
(と言っても一度だけ義理で田辺聖子さんの講演を聴いていますが)
暮らしていたのです、それが50代になろうかという今年のはじめ、
再び光源氏と関わることになろうとは思いもよりませんでした。
そして話は初めに戻ります。
少女の頃に読み途絶えてしまった「あさきゆめみし」をようやくにして
読むことができました。
というよりも、頁をめくる手ももどかしくせきたてられるように
そして読み終わるのが惜しいと思いながら読んでしまいました。
こういうことだったのですか、光の君。(漫画ですが)深く反省。
長くなりましたので、続く。
 幼き日出逢いの時をかけ違え別れし君と再びまみえん

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by orochon3 | 2017-04-14 15:44 | | Comments(0)

「希望」土井晩翠(「天地有情」より)

土井晩翠という人について、
私はほとんど何も知りませんでした。
もちろん、今も変わらずほとんど知りません。
思い浮かぶのは、滝廉太郎の荒城の月の作詞者であることと、
いろんな学校の校歌を作詞したということ、くらいです。
まったく興味のなかった土井晩翠なのに、何故かふと詩集を手にしていました。
数日前の昼下がり、近所の本屋さんでのことです。
何気なく開いて最初に載っていた詩を読んだとき、
胸の中に大きな波がよせてきたのです、
もし本屋さんでなければきっと声をあげて泣いていたのではないかと思います。
明治32年発刊の「天地有情」の冒頭におさめられている希望という詩です。
(こちらの青空文庫にて全編を読むことができます →  )
むねをうつ、という言葉はいかにもという感じで軽々しいですが、
文字通りにこの詩は私の胸を大きくうちました。
力のある言葉は人のむねをうつ、
私ごときが言う言葉ではありませんが、本当に素晴らしい。
素直な言葉で「感動しました」と言えます。

土井晩翠は数えきれないほどたくさんの校歌を作詞していますが、
その中でも有名だという宮城県の浅水小学校の校歌を初めて知りました。
その三番です。

 雨と嵐のあるるのち
 晴れたる日あり
 ゆるがざる
 望抱きて進むなり
 艱難人を玉と成す

この校歌を歌った小学生たちは、生きていく中できっと何度もこの校歌を
思い出すことと思います。
 うつうつと影をおとしてしずみたるわれをのこして陽ざしは春に

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by orochon3 | 2017-03-17 12:46 | | Comments(0)

「古典まんだら 上・下」田辺聖子

学生時代に古典文法の授業で挫折しました。
まったく面白くない授業だったという言い訳があるのですが、
それにしても国語は好きだったので、もう少しちゃんと勉強しておけば
よかったと今になってはげしく後悔しています。
田辺聖子のエッセイを読んでいていつも感動するのはその言葉の選びかたと
使いかた、そして古典文学に関する知識、というよりも愛情です。
私のような教養のまったくない者でも思わず興味が湧いてきて、
読んでみたい、読めるようになりたい、とあつかましい願望が生まれます。
付け焼刃ですら難しくどこから手をつけてよいかすらわかりませんでしたが、
こんなすてきな本を書いていてくれていました、さすが田辺サン。
この本のすばらしいところは、田辺サンの愛情がたっぷりふりかかっていて、
どこをとっても嫌な気持ちがしないところです。
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内容は、上巻の古事記から下巻の西鶴と近松や芭蕉や一茶まで
一気に日本の文学を紹介し尽くしてしまう勢い。
(詳しくはこちらをご参照ください → 上巻 下巻
以上のラインナップを見るだけでもお腹がいっぱいになります。
その一つ一つを美しい言葉で丁寧に分かりやすく解説されて、
読者である私たちに「こんなのあるのよ」「これもいいわよ」と紹介して
くれるのです、まったくあきることがありません。
この本を開いてめくるめく古典の世界を旅する時は至上のひとときでした。
各章をしめる最後の言葉にも古典への愛情がこもっています。
「大事な民族遺産」「暖かい心の源泉」などに続く「ぜひお読みください」
という言葉が柔らかくすんなりと心に届くのです。

私の中で一番身近で親しみやすいのはやはり源氏物語で、
小さな頃、初めての宝塚は奇しくも田辺聖子の新源氏物語が原作でした。
榛名由梨の源氏があまりに衝撃的で、子供心に、当時二番手だった大地真央の
惟光の方がだんぜん美しい、こちらが主役か?と疑ったものでした。
その後、大和和紀の少女マンガ「あさきゆめみし」で源氏に再会をしたものの、
どうしても最後まで読む事がならず挫折。
同じく大和和紀の「ラブパック」という王朝マンガの方に親しんだのでした。
万葉集ではやはり大和和紀の「天の果て地の限り」で中大兄皇子に出会い、
黒岩重吾の「天翔る白日」では大津皇子に出会いました。
これはOSKで舞台化もされていてもちろん観に行きました。
近松に西鶴は芝居で多くをとりあげられて親しみましたし、
弥次喜多は長谷川町子のマンガでも楽しみました。
こうしてみるとものすごく横道からではありますが、古典文学と私は
そうそう無縁ではなかったのでした。
この本を読んでいる時も、あ、この歌は知っているというのが時々あって、
古典とは遠いところにいたつもりが、実はひそかに近しいものでもあった
ということがわかったのです。

思い出すだけでも、
スサノオの「八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を」
ヤマトタケルの「倭は国のまほろばたたなづく青垣山隠れる倭しうるはし」
額田と大海人の「あかねさす」と「むらさきの」の両歌
大伯皇女の「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟背とわが見む」
大津と石川郎女の「あしひきの」と「吾を待つと」の両歌
柿本人麻呂の「淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば情もしのに古思ほゆ」
百人一首に至っては、ぼうずめくりばかりしていたので、
知らないと思っていたはずなのに意外に聞き知った歌があって驚くほどでした。

伊勢、小野小町、和泉式部をとりあげた王朝女流歌人の章でのしめくくりで、
田辺サンはこう言っています。
『古典の尊ぶべき和歌を知っているのと知らないのとでは、
 人生でそんなに差はないかもしれません。
 でも、何かの拍子に、自分の感覚や思考に影響を及ぼしてくれます』
さまざまな経験をミルフュイユのように薄く薄く積み重ねて
人としてあつみができていくとしたら、いい年をしてまだまだ若輩の身、
死ぬまでにあとどのくらいあつみを積み重ねられるか、甚だ不安です。
 いにしへのことのはつむいでみやびなるきらぼしの世にわれをいざなう
良い本と出会えました、あなうれし。

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by orochon3 | 2017-03-10 14:09 | | Comments(0)

Sanrio Lovers!'70s

昨年はたくさんの本を処分してしまい、
あ!あの本がない、この本もない、という状態になっています。
一度読んだ本でもすぐ忘れて何度でも読みたくなる困った脳みそです。
いまは読まないけれどまた読みたくなるであろうと思われる本と、
これだけは絶対にこれからも何度も読む!という本とに分けて、
後者だけを泣く泣く残し、いま部屋の書棚に並べています。
ひとが見たら、なんでこれを?と思われる本が残されていることもあります。
そのうちの一つがこれです。
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平成22年10月主婦の友社から発行されたもの。
最近書店でとても目立っていてそのコーナーすらある、例の分厚い雑誌です。
雑誌部分は薄いのにその附録が凄くて、附録がメインと言っても過言ではないくらい
豪華で立体的な附録がついているものです。

当時書店でこれを見つけた時の私の興奮たるやすさまじく、
手にとるやいなや会計へと小走りになったことを覚えています。
小走りしながら表紙の右上に目は釘付け。
スペシャル附録として1976年販売のフレンドシップコレクションの復刻版が
ついているというのです、コレ!
吹き出しで「みんな大好きだった」と書かれています、私も大好きだった!

子供のころ、家の近所にミッキーという雑貨屋さんができました。
サンリオの商品がお店にあふれんばかりに並べられていました。
この雑誌の年表によると1974年にキティちゃんやパティ&ジミーが発売された
ということなのでちょうどその頃だと思います。
私は小学校にあがる時分で、文房具やいろんなグッズが欲しくなるちょうどその頃。
ミッキーに入り浸りとなっていました。
ミッキーに入ると、正面にこのフレンドシップコレクションのショウケースがあり、
どれもこれもすごーくちっちゃくて可愛くていつまででも見ていられました。
木製の小さなベンチは特にお気に入りでした。
ずっとあのアクリル板のショウケースが忘れられなかったので、大興奮!
この写真は飽きることなくずっとずっと眺めていられます。
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あの頃、欲しいものはなんでも買ってもらえるという素晴らしく豊かな環境に
あった私は、ミッキーにあるもので欲しいものは全て買ってもらっていました。
なんという幸せな子供でしょう。
吾が母ながら、ちょっと育て方を間違えたんじゃない?と思いますが、
なんてことはない、その母自身がそういう風に育てられたのです、仕方なし。
つまりそういう親子なのでした。

この附録のついた分厚い雑誌がどうしても処分しきれず、
もっと大切な本が他にたくさんあっただろうに、書棚に残してしまいました。
いったい何歳までこれを持っているつもりでしょう、もう50になるのに!
 ちいさき日こころおどらせあつめたるあかいリボンのましろな仔猫

小学校の頃に神戸大丸でサンリオフェアーの催事がありました。
行く!と言って母と(何故か)弟と三人で喜び勇んで出かけたのは良いですが、
あまりに興奮し過ぎた私は催事場で倒れてしまいました。
倒れるくらい好きだった、なんて幸せな思い出ではないですか、
母と弟はものすごく迷惑だったと思いますが。

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by orochon3 | 2017-02-22 15:49 | | Comments(0)

さよなら、うさこちゃん

今朝のニュースでディック・ブルーナ氏の訃報が流れました。
驚きのあまり「うさこちゃん!」と絶句してしまいましたが、
よく考えてみると氏がまだご存命だったことも驚きでした。
今でこそミッフィーちゃんなどと洒落た名前で呼ばれていますが、
私の小さな頃は単純にうさこちゃんと呼ばれていて、
しかも私はひよこやあひるやことりなどの鳥全般の方が好きでした。
そういえば魚が泣いているという絵本もありました。
子供の手のサイズにあった小さな四角い絵本でした。
ビビッドなのに優しくて懐かしい色合いも大好きでした。
シンプルな線とシンプルな色、うさこちゃんの口元のバッテンだけが
どうしても好きになれませんでしたが、ほかは全て大好きでした。
1964年に絵本が日本でも発刊されたということですから、
私の生まれた頃は日本で紹介され始めた頃だったのですね。

ぐりとぐらのやまわきゆりこ、
ひとまねこざるシリーズのハンス・アウグスト・レイ、
フランシスシリーズのガース・ウィリアムス、
からすのパン屋さんのかこ・さとし
超有名どころピーターラビットのビアトリクス・ポター、
そして忘れちゃならないこねこのぴっちのハンス・フィッシャー。
どれも大大大好きだった絵本です。
まだ思い出せていない絵本はないでしょうか、、、
そうそう、もう少し大きくなってから読んだ本で絵本ではありませんが、
おさるのキーコという本の挿絵が大好きでした、お名前は安泰という方。
むかご、というものを初めて知ったのを覚えています。

ディック・ブルーナ氏の訃報を耳にして思い出したこれらの本は、
どの絵もすぐに思い出せる大切な子供の頃の思い出です。
大好きな絵本と本をたくさん読んで大きくなった私。
好きではない絵だったら内容が面白そうでも手にすることはありませんでした。

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子供の頃を思い出して今日のおあまはヒロタのシュークリーム(チョコレイト)。
昔は神戸大丸のヒロタの出店で、陳列から箱に入れてもらって買っていました。
ヒロタといえば神戸だと思っていましたが、いまは千葉で作られているそうです。
時代はうつりかわっても、ヒロタの味は変わらず美味しい!
 情緒とは縁なきものとおもいしが いつしか根づきそだちをりしや

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by orochon3 | 2017-02-18 16:11 | | Comments(0)

「残花亭日暦」田辺聖子

田辺聖子さんの本を読んでいるといつも日本語を勉強したくなります。
新しい言葉を知る喜び、ああ日本語っていいなと思います。
この「残花亭日暦」はご主人のかもかのおっちゃんが亡くなる前後の日常を
チョキチョキと切り取ったような日記形式のエッセイなのですが、
普通の日々の暮らしの中にこれほどの言葉を使う事ができる知性に
いつもながら驚くばかり。(私如きが驚くとは厚かましい事ですが、、、)
何度も読んだ本ながら、今回特に私の心に響いた言葉があります。
それが「憂悶の雲」
田辺さんは自分のウツウツした気持ちが晴れた時にこの言葉を使い、
『憂悶の雲が晴れるような気持ちがした』と表現されていました。
先日拙ブログに、昨年よりの私の心情を、
『雪をたっぷり含んだ灰色の重たい雲が常に頭の上にかかっているみたい』
だと表現しましたが、それがこの言葉に集約されていて得心した次第です。
先日の寒波の吹雪を窓から見ていた時に、この言葉が思い出されました。
 晴れ間なく雪を降らせるごとくなり頭上にひろがる憂悶の雲

この本も最初から最後までからりとア・カルイ田辺聖子風が充満していて、
大事な夫との死別を淡々と作家的に表現しているのでジメジメ感は全くナシ。
けれど、最後の最後のくだりにはジィンとしてしまいました。

五七日の読経の時にロウソクの火がしきりに燃え、どこか意志的な燃え方をした。
それまで泣かなかった田辺さんは何故か涙が止まらなくなったそうです。
親戚のオバサンはロウソクがパチパチ燃えてスミオサン(ご主人)が喜んでいた!
と言い、アシスタント嬢は大きな気の流れが仏壇に入っていったと言いました。

六七日の時、生さぬ仲の長女が帰りしなに手紙と金一封を置いていきました。
(田辺さんは結婚した時、ご主人の連れ子だった子供たちに自分のことを
「聖子おばちゃん」と呼ばせたそうです、お母さんは彼等のお母さん一人だと言って)
手紙には「長い長い間お父さんを見て頂いてありがとうございました。
それからお疲れ様でした」と書かれていて10万円入っていたそうです。
『仏壇の赤い蝋燭のふしぎな"気"より、こちらのほうが私にはコタエて、
涙が出て来た』
この一文に私も少し泣きました。

ご主人の容態が悪化してから、仕事と家庭と老母介護と夫の看病という
怒濤の日々が始まります。そんな中に書かれた一首。
 いささかは 疲れましたと いいたいが 苦労が聞いたら 怒りよるやろ
こういう波長が実に実に快いです。
そしてこの波瀾万丈のお話は、この一言でおしまいになっています。
『人生はだましだましもっていくべし』
このように柔らかく生きていけたら良いのですが、私の性根は電信柱のように
固くて柔軟性が皆無なのですからいけません。
柔軟性がないあまり、いつかポキッと折れるのを待っているような気もします。
憂悶の雲は晴れる気配すらありません。

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by orochon3 | 2017-01-27 09:22 | | Comments(0)

「浪子のハンカチ」戸板康二

ずいぶん前から楽しみに拝読しているブログがあります。
戸板康二のおっかけ、、、恐らく研究と言った方が良いのかもしれませんが、
おっかけの方がなんだかこの方のブログには相応しいように思います。
戸板康二への愛情が溢れているブログなのです。
時代的に興味があるだけで、戸板康二には全く興味がなかったのですが、
ふとしたきっかけでこの本を知り、読んでみたい!と取り寄せました。
明治大正の文豪の名作を題材にして謎やモデル問題などを推理するという、
なんだかものすごく面白そうな内容!
取り上げられている作品は下記のとおり。
徳富蘆花の「不如帰」、泉鏡花の「婦系図」、夏目漱石の「坊ちゃん」、
森鴎外の「雁」、尾崎紅葉の「金色夜叉」、菊池寛の「父帰る」、
樋口一葉の「たけくらべ」、谷崎潤一郎の「痴人の愛」という名作オンパレード!

例えば「不如帰」。実在のモデルがいましたが、その女性が実は長生きして、
ビフテキやキャラメルが好きだったという資料が出て来たら、、、?!
結局はなーんだ!という結末なのですが、かなり盛り上がりました。
「婦系図」は私も大好きな作品です。
それを舞台化するにあたって様々な解釈がなされて、挙げ句は、、、。
この結末もクスリと笑わせるオチがありました。
こういう具合に、どの作品からでも面白いストーリーが出来上がっていて、
こういう小説があったのか、という新鮮な驚きがつまっています。
もちろん、これらの作品を読んだことがある方が愉しめると思いますが、
こと細かに作品の解説もきちんと書かれているので、
読んだ事のない人でも面白く読めるのではないかと思います。
何より戸板康二というなんだか難しそうな人がこんな面白い小説を書くなんて
思いもよりませんでした、誤解していたみたい。
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こんな本があったのですねぇ、、、これだから読書は楽しい。

これを読んだあと、久しぶりに「痴人の愛」を読み返しました。
忘れていたことがいっぱいあって、ずいぶん愉しめました。
忘れっぽい性格はこうして良いこともあるのです。

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by orochon3 | 2017-01-14 08:42 | | Comments(0)

「田辺聖子の恋する文学」田辺聖子

お正月も終わり、日常に戻りました、と思う間もなく今日から初場所。
色々と楽しみがあって幸せなことです。

年末年始はお医者さんに行くことが多く、その時に読んでいた本を
ようやく読み終えました。
うっとおしいお医者さん通いには、ア・カルイ田辺聖子がピッタリなのです。
それも、これは関西での講演内容を本にまとめたものなので語り口調で書かれていて、
まるで講演を聴いているような気持ちになります。
細く高い彼女の声が聞こえてきそうです。

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内容は、樋口一葉、与謝野晶子、杉田久女、吉屋信子、林芙美子の五人を
文学と恋をからめて紹介していくというもの。

マンガっ子の私は樋口一葉も与謝野晶子も少女マンガで知りました。
(与謝野晶子は里中満智子の「晶子恋歌」という作品でした)
どちらもドラマなどでも放送された超メジャー級の女流文学者です。
一葉には半井桃水というお相手がいました、そうそうそうだった。
今の感覚では24歳という若さで亡くなったといいますが、
終戦直後くらいまでの日本人の寿命は50歳くらいだったらしいので、
そんなに若くして亡くなったというわけではなかったのでしょうか。
それでも亡くなる直前に数々の名作を書いたというのは何かが書かせたような、、、
運命というようなものを感じます。
一葉と言えば「たけくらべ」。
これもマンガの「ガラスの仮面」の中で、マヤと亜弓さんが「たけくらべ」の
美登利を演じ分けるというくだりがあって、それで「たけくらべ」を知ったのですから、
どれだけマンガっ子?と思われるかもしれませぬ、、、。
けれどそれがきっかけとなって一葉の「たけくらべ」を読むのですから、
文学への入り口はどこにでもあるのものですね。
この本の中では「十三夜」が詳しく紹介されています。
他の作品も田辺サンの語りで聴いてみたいと思いました。

与謝野晶子といえば旅順口にいる弟へ詠んだあの有名な詩。
旅順へ行った時に資料館に入りました。
様々な写真や資料が展示されている中に、日本語でこの詩が展示されていました。
「ああをとうとよ 君を泣く 君死にたまふことなかれ」と始まるこの詩を読んで、
涙が溢れて困ったことを思い出しました。(今は別の意味でをとうとを泣く私ですが、、、)
激しい嫉妬の感情を文学に昇華させたという晶子、
文学というのは「ワタクシ」をさらけ出す事であるという言葉をつきつけられました。

杉田久女は俳句の人ですが俳句に興味の無い私にはこれまで無縁の人でした。
けれどこの本を通して、そうそう遠い人ではない事を知りました。
明治時代のお嬢さま、お茶ノ水でテニスやダンス、西洋料理やフランス刺繍を愉しんだ、
そんな人だったとは知りませんでした。
昭和21年に55歳で亡くなったそうですが、天寿をまっとうされたかと思います。

そして田辺聖子の大好きな吉屋信子、吉屋信子と親しかったという林芙美子と続きます。
いま私たちが読む事ができる吉屋信子の文学は、全体の一部ですが、
この本の中で紹介された数々の作品を是非読んでみたくなりました。
特に題名だけでも興味をそそられる戦前の作品「巴里の塩鮭(ソモンフュメ)」。
塩鮭をソモンフュメと仏語で読ませるセンスにロマンを感じずにはいられません。

林芙美子の章では、田辺聖子独特の分析がされていて新鮮な感覚をおぼえます。
特に林芙美子の従軍記について、戦争讃歌や軍国主義讃歌ではない、
『芙美子の兵隊讃歌というのはつまり男讃歌です。運命を敢然と受けとめて、
命令のままに戦い、死んでいく兵隊たちを通して男の魅力を感じているのです』
この一文を読んで私の中の林芙美子がよりくっきりと鮮やかな形を成しました。

良い本に出会えて良かったですが、この講演を直に聴きたかったですねぇ。

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by orochon3 | 2017-01-08 13:11 | | Comments(0)

続・1930年代の広告

先日の「スタア」誌に載っていた広告の続編です。
もっとたくさんあったのですが、厳選しました。

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「一歩進んだ おしるこや」
いったい何が進んでいるんだかわかりませんけどね、謳い文句が面白い。
 
「お気に召すとも 召さずとも
 これは面白い これは変わつた
 これは粋だと きつとお言葉を
 戴くに違ひありません」

いったい何を根拠にこんなに自信満々なんだかわかりません。
ともかく、颯爽と新装開店したらしいのです。

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こちらは、少々革新的ではないですか。
名前からして、ふじやまにっぽん。
しかも喫茶界最初だそうです。何が初なんだかわかりませんけど。
資生堂を横に入ったところ、あそこらへんにあったらしいです。

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この広告は、そんなに面白いわけではないのです。
ただ、店名が「銀座の店」というのでしょうか?
かの桑野通子嬢が趣味で始めた甘味処だということで、
“桑野通子の銀座の店” になるのでしょうねェ。

おしまひ。

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by orochon3 | 2016-08-21 09:06 | | Comments(0)


主に戦前邦画と、思い切り偏った読書の感想などなど。近頃はもっぱらお酒ばかりで スミマセン。


by orochon3

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