「あゝ野麦峠」山本茂実

ある製糸工女哀史、とサブタイトル。
このあいだ読んだ「女工哀史」の女工さんは紡績、織布の女工さん達でしたが、
私の中で女工さんというと製糸工場の方が馴染みがありました。
蒸気がもうもうとしている広い工場の中、粗末な着物を着て髪を乱し、
一心に糸を引く女たち、というのが女工さんのイメージでした。
そんな彼女たちがとんでもなく貧しい農家で育ち、家族のために、
口べらしのために、岡谷の工場へ糸を引きに行く時に越えたのが、野麦峠。

きわめて原価率が高いという生糸産業は、それでも当時、
開国間もない日本国内で、材料の100%を国産でまかなって外貨を稼ぐ事のできる
唯一の優等生な産業だったのでした。
それでは、その稼いだ外貨はどこへ消えていったのか?
日清・日露の戦いに、開国間もない日本が一応は勝利しましたが、
その勝利に酔っていた国民は、日清戦争での勝利の鍵となった新兵器や、
日露戦争で東郷元帥が率いた連合艦隊の大艦隊を、どうやって日本が買ったのか、
そのお金がどこからきたのか、『考える余裕すらなかった』のでした。
彼女たちの過酷な労働の上に成り立っていた新しい日本。
小学校の歴史の授業を思い出しました。ということは、習った事をすっかり
忘れてしまっていたのです。思い出して良かった。

驚いたのは、不健康で厳しい環境の中での過酷な労働と待遇でむしばまれていた
彼女たち自身が、「冷遇」されていたと思っていた者が少なく、
実に50%の者が「普通」だと思っていた、ということでした。
当時はみんなそうだったから、特別に自分だけが辛いと思わなかった、と。
だから、彼女達自身は「女工哀史」だとは思っていない、と。
そればかりか、工女部屋は汚く豚小屋以下だったかもしれないけれど、
それでも彼女達の育った家よりはるかに衛生的だったし、少なくとも、
食べる物もあったというのです。

『人間は他と比較することによってのみ自己の立場を知るものだとしたら、
彼らにとっては工場生活は哀史どころか、それは生活の一歩前進と考えるのも
無理はない。つまりそれはとりもなおさず日本農村の底知れない貧しいみじめさの
象徴であった』

『女工たちは、繭よりも、繰糸枠よりも、そして彼らの手から繰り出される
美しい糸よりも、自分たちのほうがはるかに尊い存在である』
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# by orochon3 | 2005-05-03 23:17 | | Comments(0)

母の恋文

ワタクシ的には大満足。お気に入りの映画となる作品でした!
すじも意外におもしろくて、くすりと笑ってしまったり。
たかだか70年しか経っていないのだから、今とそんなに変わっていると
思う方がおかしいのかもしれないけど・・・それでも、驚いた私は現代人。
イヤもしかしたら、今よりもずっとお洒落でモダンだったのかも。
とっさの一言に「ネバーマイン」とか「あなたのハズ」とか言っても、
ちっともキザじゃなくて格好良く聞こえるんだから。

夢子さんと八重子さんという二人の女性が、なんてったって魅力的!
夢子さんは帯位置の高い着物姿に腕時計、左手中指に大きな指輪。
お父さんに「ヨウ、ちょうだいよう」とお小遣いをせびります。
着物のたもとにはハンケチが入っていました。そっと出す仕草がイイ。
八重子さんは洋装。首元に一巻きした長いストールが格好良いです。
スカート丈はとても長くて、着物姿の夢子さんと並ぶとほとんど裾丈が同じ。
全体にモコモコしたシルエットは昔ながらでしょうがないか。
ぜんたいに下着の発想が全然違うんですから・・・。
八重子さんはパジャマでベッドで寝ているくらい徹底的な洋風ぶり。
和風の夢子さんも、芸者遊びをする夫を密偵する時の格好は、
ハンチングなんかかぶって車に乗っている姿、すこぶるカッコイイ!

この映画、いろんなカップルが出来上がってとても楽しいです。
デート風景は、タンゴの流れる喫茶店でモダンな柄のコーヒカップ、
「あなたにとっても逢いたかったのヨ」と甘い言葉が似合います。
もちろんお相手は徳大寺伸!おお、素敵。この作品でもやっぱり素敵。
だんぜん贔屓にしちゃいますね。

夢子さんの若奥様ぶり、なんでもない普段の生活が描かれていて最高。
特に台所の場面では、四角い瓦斯台でお料理しているところまで見せて貰って
ものすごーく得をした気分♪
ついでに帯揚げの見せ方もお勉強になりました。
最初から終わりまで、朗らかでとっても楽しい気分になる映画でした。
夢子さんの旦那は最低だったけど。

そして、最期の喫茶店の場面で流れていたのは“Parlez moi d'amour”
なんてお洒落なんでしょう!

昭和10年・製作=松竹キネマ/監督・野村浩将


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# by orochon3 | 2005-04-28 20:14 | 戦前松竹 | Comments(4)

音楽大進軍

花粉症でひきこもり中、あれこれビデオは観てましたが、
つまらないのばかりで・・・なかなかアタリがありませんでした。
でもこれは良かったデス!きれいなきれいな画面でした。
何がきれいかというと、すべてです。
お話のスジはまったくどうでもイイというくらい、
出てくる建物や街並みがきれい。欧州映画のように。
(日本ていつからこんなにつまらない街並みになったの??)
まるで時々見る夢の中のような風景が広がって気分爽快。

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特に、東宝の撮影所。こんなのがあったんですねぇ。
そして、富士山を見ながら車を走らせて着いたホテル。
ここ、いったいどこなんでしょうか。
そしてこれはなんていうホテルなんでしょう。
行ってみたい、泊まってみたい。
そしてこんなところで働いてみたいワァ・・・。

それから、かなりツボだったのは、台所の場面。
窓の大きくあいた明るい台所は、ちょっと昭和40年代のようでもあり。
というよりも、昭和40年代頃まではこういう雰囲気がまだ残っていた
ということなんでしょうか???何故か懐かしい台所。
中央に配膳台が据えられていて、壁にはフライパンがかかってる。
床は木です。隣の部屋は畳敷きの食事室。
もちろん、勝手口がついてます♪

あ、内容は国策映画まっしぐら。音楽方面の諸先生方が総出演。
愛しのカワユイ山田五十鈴も長谷川一夫とともに出演。

昭和18年・製作=東宝映画/監督・渡辺邦男

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# by orochon3 | 2005-04-27 00:01 | 戦前東宝 | Comments(2)

ヒノキ花粉もちょっとピークを過ぎたとか・・・。
春は昔から苦手だったけど、花粉症になってからますます苦手。
こんな時は、家にこもって本を読むにかぎりますね。

今年初めに東京の弥生美術館と竹久夢二美術館で開催されてた
「抒情画に見るアンティーク着物展」
「竹久夢二 おしゃれの世界展」
は結局どちらも行けずに終わってしまいましたが、
この本を購入して密かにモダン着こなしを学んでいます。
“モダン・ガール、女学生、お嬢様たちの
大正浪漫・昭和モダンの香りあふれる着物世界”
と帯にある通り、
ゆめ・たけひさ、華宵、虹児などの挿絵画家の描いた美しくも妖しい
モダンな着物姿が堪能できる一冊でした。

実際問題として自分にこんな着物が着こなせるかどうか???
もちろん年齢的にも苦しい部分も多々あり、鏡で我が身を見ると
くすんと涙を流したりしながらも、夢は果てしなくふくらみ、
憧れは春のかすんだ空のむこうまで広がるのであります。
昔の方々の着物の着こなしを今にそのまま体現する事は無理でも、
どこかにこんな香りを漂わせているような雰囲気をせめて作れたら、
とかなり高望みの野望を抱きつつ、何度もページをめくっています。

途中に挿入されている当時の婦人雑誌、
「夏の身だしなみ、美しいしぐさ」のグラビア記事、
和装小物一式の紹介記事など、こればかりはカラーでないのが残念!
洋服の写真を見ている時にはこれほど色に対して執着はなかったのに、
ましてや昔の街並み、人物などの写真にも、色がなくてもそんなに
がっかりしなかったのに。着物に関しては、実物の色が見たい見たい病です。

「女工哀史」が紹介されていて、当時のモダンキモノライフを支えていた
大多数の貧しい少女達(なんと9割)にも触れられていました。
『現在私たちがアンティーク着物を手にした時彼女達への感謝も忘れないように』
と記されています。ちょっと優等生的なコメントに鼻白むような気もしたけれど、
ここは素直に、命を削り綿まみれになって機を織った彼女達を忘れないこと、
と胸に刻みましょう。

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# by orochon3 | 2005-04-23 19:28 | | Comments(0)

青春の気流

飛行機の設計師、工場のシーン、すべて興味ナシ、です。
山根壽子サンと原節子サンのお二人を見てるだけで充分!

節子サンが想いを寄せる大日向伝氏を駅まで見送る場面で、
実は大日向伝には壽子サンという恋人がいるので、彼は乗り気でなく、
「もう駅ですからここで結構」とか言って節子サンを振り切ると、
節子サンの台詞がいかしてます。
「あんまり駅に近すぎるのね」
そして別れて行き過ぎて、ふと振り返った彼女の顔は今までで一番キレイでした。
こういう何の根拠もない自信満々のお嬢さんにはピッタリ!胸がすくように。
また、相手にかまわず大日向伝の家を突然訪ねた節子サンも、実に“らしい”。
最期には振られちゃっても結婚式では笑顔で拍手を送る姿も堂々と美しい!パチパチ。
最期の方を除けばほとんどが豪奢な洋装姿で、節子サンはあくまで節子サン道をゆく。

対して壽子さんは終始お着物姿でうつむいたり、少し淋しげに微笑んだり。
弟クンと甘味処に行ったりするところではお姉さんぶって快活だけど。
恋人大日向伝といつもの「純喫茶紅」でいつものソーダ水を飲んだあと、
膝の上の小さなバッグから白いハンケチを出して口を拭う仕草、これにノックダウン。
こんな仕草が自然に身に付いていたら・・・私の人生も変わったかも?!
この「紅」にはかわいい女給さんが三人いて、二人を陰ながら応援しているの。
とびきり素敵な音楽を流してあげたり、そっと覗いてワクワクしてる。
彼女達のお着物も、なかなか良かったです。中でも薔薇の柄の着物、いいなあ!

昭和17年・製作=東宝映画/演出・伏水修

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# by orochon3 | 2005-04-05 22:49 | 戦前東宝 | Comments(0)