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2019年 06月 12日 ( 1 )




美智子さまと吉屋信子、と田辺聖子

田辺聖子サンというと、
忘れられない文章があります。
「ゆめはるか吉屋信子」という
吉屋信子について記した評伝、
その著作の文庫版のあとがきの
後半部分です。
自分自身のためにも、
長いけれど抜粋します。
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皇后さまは隣の席の私に
最近作をおたずねになる。
私は『ゆめはるか吉屋信子』を
書きました、と申し上げると、
<まあ、なつかしい名前!>
と玲瓏たる皇后さまの美しい
ソプラノがひびきわたった。
<吉屋信子さんは、わたくしの
少女時代の愛読書でしたのよ>
そして、『花物語』『紅孔雀』
『桜貝』・・・とすらすら、
信子の少女小説のタイトルを
あげられる。終戦後のこととて、
自由に本が入手できず、
友達と貸し借りあって、
<夢中で読みましたのよ・・・>
いつか、皇后さまのお話に、
テーブルの人々は楽しく聴き入り、
天皇さまも微笑を浮かべられる。
皇后さまのお言葉は平易でありながら、
品格ある美しい日本語である。
明晰なご発音。そして珠を転がすような、
と古くから日本で愛用されている
美声の表現がいかにも似つかわしいお声。
信子の少女小説がいかにたのしく、
すがすがしくも美しかったかを
頰を染めて語られる。

私もつい、身をのり出してお答えする。
そうでございます、
信子は少女小説こそ、
力を込めて書きました。
手ぬきも妥協もしませんでした。
何といっても、<少女>に
読ませるから、と。・・・

ーー信子先生、聞いて頂けました?
信子先生の<少女>にそそぐ愛と情熱は
何十年後も読者の心を、
美しく染めるのですよ。
齢を重ねても、そのかみの夢見心地を、
女人たちは忘れないのですよ。
愛を、誠実を、女人の誇りを、
思いやりの心、いたわりの心、
それらのやさしみを、少女よ、
忘れないで、と訴えつづけた、
あなたの少女文学は、女人の心のうちに、
生涯の花を咲かせたのです。
私は心で<信子先生>にそう伝え、
席をおたちになる両陛下を、
テーブルの方々と共に起って、
お見送りしたことだった。
この幸せな思いを、
本書を手にとって下さった
皆様にもお伝えしたくて、
文庫版のために書き加えた。

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この文章を読むたびに、
私は胸がいっぱいになって
美智子さまと田辺サンと、
吉屋信子の、愉しそうな
笑顔が思い浮かびます。
厚かましく恐れ多くも、
私もご一緒のテーブルに
つかせて頂いているような、
幸せな気持ちになるのです。

田辺サンが愛したものは、
すべてに優しくて、
幸せがいっぱい、です。
 水無月のひんやりとした雨あがり
   香りをはなつくちなしの花




by orochon3 | 2019-06-12 08:41 | | Comments(0)

主に戦前邦画と、思い切り偏った読書の感想などなど。近頃はもっぱらお酒ばかりで スミマセン。
by orochon3

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