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2019年 06月 15日 ( 1 )




昭和天皇と田辺聖子

田辺サンが亡くなって、
いろんなことを思い出しています。
先日の美智子さまとの
幸せなエピソードとともに、
田辺サンの自伝的小説
「私の大阪八景」も忘れられません。
その中でも最後の最後、
昭和天皇が人間宣言をされて、
行幸で大阪へ来られた時の
民衆の描写はたまらなく
胸をつきました。
ここでも既に記しているかも
しれませんが、再度抜粋します。
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 お車の中にはソフトを振って
答えられる眼鏡の陛下のお姿が見えた、
とうとう見えた。陛下を見た。
 無数の腕が狂気のように振られる。
「陛下、陛下ッ」と群衆はロープを
押しきって、なだれを打って陛下の
お車をかこもうとする。お車はちょっと
立ち往生のような形になった。
「ええもう、こないなったらほんまに
身内は日本人だけや、ほんまに
日本人だけだす、苦労分け合えるのは」
 感激屋のトラさんは号泣した。
「わてな、大連出航後まなしに船の中で
陛下のご健在を聞いて一同、誰からとも
なくバンザイを叫びましたんや」
 トラさんは泣き泣きいった。
突然、大きな声をはりあげて、
 「陛下、ーー苦労しなはったなあ、
お互い、まあえらい目にあいましたなあ。
長生きしとくなはれやァ、陛下、
これからだっせ、陛下ーー」
 もみくちゃにされながら去ってゆく
お車に向かってどなった。
 周囲の人は笑った。笑いながら
トキコもポロッと涙がこぼれた。
トラさんの叫びは日本の敗戦以来、
誇りを失ってくじけていた日本人の
心にぴたッとくるひとすじの暖かさ
があったのか、またはちょうど皆の
いいたいことを代弁してくれたのか、
笑いながらみんな泣いた。

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登場人物の誰もかれもが
生き生きと熱をもって
描かれている田辺サンの作品。
これが私を惹きつけるのでしょう。
この後、群衆のバンザイの声の中に
<トキコは「陛下、置いていかないで
ください!」と言う無数の死者の声を
聞いた>と結ばれています。
ここに田辺サンの強い思いが
こめられているのでしょう。
そしてそれが胸をわしづかみにして、
そのまま持っていかれたように
読後もしばし放心してしまうのです。
言葉の力、文章の力は、
こんなにも強さを持つのですね。
そして田辺サンの文章はいつも
強くてこよなく優しいです。
 やさしくて力づよくておもしろい
   心にしみる言葉の力

なかなか梅雨入りしません。
どうなっているのかな。




by orochon3 | 2019-06-15 09:07 | | Comments(0)

主に戦前邦画と、思い切り偏った読書の感想などなど。近頃はもっぱらお酒ばかりで スミマセン。
by orochon3

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